痩せ型では反時計回転になりやすい?体型と心電図の回転の関係を深掘り

体型と心電図の回転

心電図の解説書では一般的に「肥満型では時計回転、痩せ型では反時計回転を示しやすい」と説明されることがあります。しかし、この2つの関係は本当に同じ程度の科学的根拠に裏付けられているのでしょうか。

実は、肥満と時計回転の関連は疫学研究で支持されている一方、痩せ型と反時計回転の関連については、一貫した結果が得られていません。

今回は心電図の回転の基本から体型との関係、歴史的な背景、そして近年の研究結果まで詳しく解説します。


心電図の時計回転・反時計回転とは?

心電図における時計回転(clockwise rotation)と反時計回転(counterclockwise rotation)は、胸部誘導におけるR波とS波の関係から判断します。

通常、胸部誘導ではV1からV6に向かうにつれてR波が増高してS波が減少します。このとき、R波とS波の振幅がほぼ等しくなる部分を移行帯(transition zone)と呼びます。一般的に移行帯はV3〜V4付近に認められます。

分類移行帯の位置
正常V3〜V4付近
反時計回転V1〜V2付近への早期移行
時計回転V5〜V6付近への遅延移行

※移行帯の分類には文献によって多少の違いがあります。

これらの名称は心臓を心尖部側から観察した際の長軸周囲の回転という古典的な概念に由来しています。ただし、心電図上の時計回転・反時計回転が、実際の心臓の解剖学的回転と完全に一致するわけではありません。胸部誘導のR波進行は心臓の位置だけでなく、心室興奮の方向、胸郭の形態、電極の位置などにも影響されるためです。


なぜ痩せ型では反時計回転になると説明されるのか?

従来、体型と心臓の位置には次のような関係があると説明されてきました。

痩せ型の場合

  • 横隔膜が比較的低い位置にある
  • 心臓が縦長に位置しやすい
  • 垂直位心(vertical heart)になりやすい

肥満型の場合

  • 横隔膜が比較的高い位置にある
  • 心臓が横方向に位置しやすい
  • 水平位心(horizontal heart)になりやすい

このような心臓の位置の違いから痩せ型では反時計回転、肥満型では時計回転になりやすいと説明されることがあります。しかし、ここで重要なのは垂直位心・水平位心と、時計回転・反時計回転は異なる概念であるという点です。

垂直位心と水平位心は、主に身体の前額面における心臓の長軸の向きを表します。一方、時計回転と反時計回転は心臓の長軸周囲の回転に由来する概念であり、心電図では胸部誘導の移行帯によって評価されます。したがって、垂直位心だから必ず反時計回転になるわけではありません。


痩せ型では垂直位心になりやすいという根拠はある?

この関係については古くから解剖学的・放射線学的な研究が行われています。

1920年代にはすでに体型と心臓の位置が研究されていた

1921年の放射線学的な文献では体格による心臓長軸の角度の違いが報告されています。

体格心臓長軸の角度
肥満型(hypersthenic)33°
標準型(sthenic)37°
やや痩せ型(hyposthenic)43°
痩せ型(asthenic)48°

※角度は当時の文献で用いられた定義に基づきます。心電図のQRS電気軸とは異なります。

この結果は痩せ型になるほど心臓が垂直方向に位置しやすいという古典的な考え方を支持しています。また、1957年の論文 The Syndrome of the Suspended Heart でも痩せ型の体格では横隔膜が低く、心臓が細長く垂直方向に位置することが説明されています。

The Syndrome of the Suspended Heart(1957年)

現代のMRI研究でも体型と心臓の位置の関係が支持されている

2025年には約39,000人の心臓MRIと12誘導心電図を解析した大規模研究が報告されています。

Anatomical-electrical coupling of cardiac axes: Definitions and population variability for advancing personalised ECG interpretation

この研究ではBMIが高いほど心臓の解剖学的長軸が水平に近づく傾向が示されました。これは、肥満型では水平位心、痩せ型では相対的に垂直位心になりやすいという従来の考え方と整合する結果です。ただし、BMIが極端に低い人だけを対象として検証した研究ではありません。

つまり、痩せ型と垂直位心の関連には古典的な放射線学研究だけでなく、現代のMRI研究からも一定の裏付けがあります。


では、痩せ型では反時計回転になりやすいのか?

実際にBMIと心電図の回転の関係を検討した研究では従来の説明と必ずしも一致しない結果が報告されています。

2018年:4,624人を対象とした研究

Distribution and determinants of QRS rotation of black and white persons in the general population. Journal of Electrocardiology, 2018

この研究では心血管疾患や主要な心電図異常のない4,624人を対象に体型や胸郭形態と心電図の回転との関係を検討しました。その結果、以下のような関連が報告されています。

心電図所見関連する特徴
時計回転肥満(BMI 30以上)
反時計回転女性
反時計回転胸郭の前後径/横径比が大きい
反時計回転BMI 20未満の痩せ型はむしろ少ない

特に注目すべきなのは反時計回転を示す人では、BMI 20未満の痩せ型が少なかったという結果です。これは「痩せ型では反時計回転が多い」という単純な説明を支持するものではありません。

もちろん、この研究だけで痩せ型と反時計回転の関連を完全に否定できるわけではありません。しかし、少なくとも痩せ型が反時計回転の明確な予測因子であるとはいえないことが示されています。

2015年:5,541人を対象とした研究

Abnormal electrocardiographic QRS transition zone and risk of mortality in individuals free of cardiovascular disease. Europace, 2015

この研究では5,541人を対象に心電図の移行帯と身体的特徴などの関係を検討しています。その結果、時計回転を示す人では正常移行帯の人と比較してBMIが高い傾向が報告されました。

一方、反時計回転では女性やヒスパニック系の割合が高いことが示されています。この研究も肥満と時計回転の関連を支持する一方、痩せ型と反時計回転の関係を直接裏付けるものではありません。


なぜ肥満と時計回転の関連は認められるのに、痩せ型と反時計回転の関連は明確ではないのか?

一見すると肥満型と痩せ型は対照的な体型であるため、心電図にも反対方向の変化が現れるように思えます。しかし、心電図の移行帯は心臓の位置だけで決まるわけではありません。

例えば以下のような要因が関係すると考えられます。

  • 心臓の解剖学的位置や長軸周囲の回転
  • 胸郭の形態
  • 心臓と胸部誘導電極の位置関係
  • 心室興奮の方向
  • 電極装着位置

肥満では横隔膜の位置や胸郭形態、心臓周囲の脂肪など、複数の要因が胸部誘導の波形に影響する可能性があります。一方、痩せ型で心臓が垂直方向に位置していても、それが必ずしも胸部誘導の早期移行帯につながるとは限りません。

つまり、肥満と時計回転の関連が認められるからといってその逆として痩せ型と反時計回転の関連が成立するとは限らないのです。なお、これらの研究は主に観察研究であり肥満そのものが時計回転を引き起こすという因果関係まで証明したものではありません。


そもそも「痩せ型では反時計回転」という説明はいつからあるのか?

この問題を考えるうえでは、心電図学の歴史も興味深いものです。

1920年代:体型と心臓の位置の関係

1925年にはMeekとWilsonが心臓の位置の変化とQRS波形の関係について報告しています。この時代には痩せ型では心臓が垂直方向に位置しやすく、肥満型では水平に位置しやすいという考え方がすでに存在していました。ただし、この時点で「痩せ型では反時計回転」と説明されていたことは確認できません。

1940〜1950年代:心臓の回転という概念の発展

1947年のGoldbergerの教科書 Unipolar Lead Electrocardiography では、心臓の垂直位・水平位や長軸周囲の回転が扱われています。また、1951年のLepeschkinの教科書 Modern Electrocardiography でも心臓の位置と回転が分類されています。

興味深いことに、Lepeschkinの分類では垂直位心と水平位心のいずれにも時計回転・反時計回転が存在します。これは当時から垂直位心と反時計回転を必ずしも同一視していなかったことを示しています。

1958年:日本の論文でも両者を区別

1958年の日本の心電図研究でも垂直位心に時計回転が伴う場合があることが記述されています。つまり、少なくとも1950年代には、垂直位心と反時計回転が必ずしも対応しないことが認識されていました。

1958年の論文(PDF)

「痩せ型=反時計回転」の最初の出典は?

現時点で確認できた文献からは、この説明がいつ、誰によって初めて提唱されたのかは特定できません。痩せ型と垂直位心の関係、そして心臓の長軸周囲の回転という別々の概念が後年の教育的な説明の中で結びつけられた可能性はあります。


心電図上の回転は、本当に心臓の解剖学的回転を反映しているのか?

1991年には心電図の移行帯とCTで測定した心臓の解剖学的位置を比較した研究が報告されています。

Evaluation of the electrocardiographic transitional zone by cardiac computed tomography

この研究では102人を対象に心電図上の回転とCTで測定した心室中隔の角度を比較しました。

心電図所見CTで測定した中隔角
時計回転38.2° ± 8.4°
正常移行帯51.8° ± 6.8°
反時計回転64.9° ± 10.4°

心電図の回転と解剖学的な心臓の向きには関連が認められました。一方、両者が完全に一致するわけではなく心臓と胸部誘導電極との相対的な位置関係も重要であることが示唆されています。

この研究は、心電図の時計回転・反時計回転を、単純に心臓そのものの回転と解釈してはいけないことを示す重要な資料です。

1991年の研究(PubMed)


まとめ:痩せ型と反時計回転の関係をどう理解すべきか?

これまでの文献を整理すると以下のようになります。

関係科学的根拠
痩せ型では垂直位心になりやすい古典的画像研究と現代MRI研究で支持
肥満型では水平位心になりやすい現代MRI研究でも支持
肥満型では時計回転が多い大規模疫学研究で関連が報告されている
痩せ型では反時計回転が多い一貫した根拠は不十分
垂直位心では必ず反時計回転になる成立しない
心電図上の回転は解剖学的回転と完全に一致する成立しない

従来「肥満型では時計回転、痩せ型では反時計回転」と対称的に説明されることがあります。しかし、現在の研究結果を踏まえると両者を同じ程度に確立された関係として扱うことには注意が必要です。

痩せ型では垂直位心になりやすいという関係には一定の根拠がありますが、そこから反時計回転になりやすいと結論づけることはできません。

心電図の回転は心臓の解剖学的位置だけでなく、胸郭形態や電極との位置関係、心室興奮の方向など、複数の要因によって決まるためです。

したがって、心電図を学習する際には、体型から時計回転・反時計回転を単純に推測するのではなく、実際の胸部誘導におけるR波進行と移行帯を確認することが重要です。


参考文献

  1. Meek WJ, Wilson A. The Effect of Changes in Position of the Heart on the Q-R-S Complex of the Electrocardiogram. Arch Intern Med. 1925. 
  2. Goldberger E. Unipolar Lead Electrocardiography. 1947.
  3. Lepeschkin E. Modern Electrocardiography, Volume I. 1951.
  4. The Syndrome of the Suspended Heart. British Heart Journal. 1957. 
  5. Tahara Y, et al. Evaluation of the electrocardiographic transitional zone by cardiac computed tomography. J Electrocardiol. 1991. 
  6. Abnormal electrocardiographic QRS transition zone and risk of mortality in individuals free of cardiovascular disease. Europace. 2015. 
  7. Distribution and determinants of QRS rotation of black and white persons in the general population. J Electrocardiol. 2018. 
  8. Anatomical-electrical coupling of cardiac axes: Definitions and population variability for advancing personalised ECG interpretation. 2025.