心拍数が速くなると右脚と左脚の不応期が逆転する? 原著論文を深掘り

はじめに:右脚の不応期は左脚より長い?

心房期外収縮(PAC)や心房細動などで生じる変行伝導では左脚ブロック(LBBB)型よりも右脚ブロック(RBBB)型が多く認められます。その理由の一つとして一般に右脚の不応期が左脚より長い傾向があることが挙げられます。

例えば、心房期外収縮による興奮が早期にHis-Purkinje系へ到達した場合、左脚はすでに不応期から回復していても右脚はまだ不応期にあることがあります。この場合、興奮は主に左脚を介して心室へ伝わり右室の興奮が遅れることでRBBB型の変行伝導が生じます。

しかし、ここで一つの疑問が生じます。右脚の不応期は心拍数にかかわらず常に左脚より長いのでしょうか?

実は1984年に発表された研究では心拍数の変化によって右脚と左脚の相対的不応期の長短関係が逆転する可能性が報告されています。

Chilsonらの1984年の研究

原著論文

Chilson DA, Zipes DP, Heger JJ, Browne KF, Prystowsky EN.Functional Bundle Branch Block: Discordant Response of Right and Left Bundle Branches to Changes in Heart Rate.American Journal of Cardiology. 1984;54:313–316.PubMedで論文を確認

この研究は心拍数の増加によって右脚と左脚の不応期がどのように変化するのかを検討したものです。

著者らは心拍数の増加によって右脚の不応期が左脚より大きく短縮するため、遅い心拍数では右脚の不応期が長く、速い心拍数では左脚の不応期が長くなる可能性を考えました。つまり、左右の不応期曲線が交差する「crossover」という現象を仮説として提示したのです。

研究対象と方法

対象は房室伝導系疾患の明らかな証拠がない314例でした。全例で通常のQRS波形が認められ副伝導路を有する患者は除外されました。

研究では高位右房から心房早期刺激を行い、基本刺激周期を変化させながら機能的脚ブロックの出現を調べました。具体的には8拍ごとに単発の早期刺激を加え、連結期を10~20 msずつ短縮していきました。

機能的脚ブロックは早期刺激によりQRS幅が120 ms以上に延長し、典型的なRBBB型またはLBBB型の波形が出現することと定義されました。

この研究における「不応期」の定義

著者らは右脚と左脚の不応期を直接測定したわけではありません。代わりに、心房早期刺激によって脚ブロックが出現する最も長いH₁H₂間隔を脚の「相対的不応期(relative refractory period)」と定義しました。

これは厳密には脚の伝導遅延または伝導ブロックが心電図上で現れ始める連結期を表しています。著者らは有効不応期(effective refractory period)や機能的不応期(functional refractory period)という用語を意図的に避けています。

なぜなら、脚の局所電位を直接記録していないためQRS波形の変化が真の伝導途絶によるものなのか、著明な伝導遅延によるものなのかを区別できないからです。

研究結果:314例中10例で両方の機能的脚ブロックを確認

314例のうち10例で心房早期刺激によって機能的RBBBと機能的LBBBの両方が誘発されました。この10例の平均年齢は44歳(18~64歳)、男性8例、女性2例でした。6例には明らかな器質的心疾患が認められませんでしたが、残り4例には冠動脈疾患が存在していました。

また、心室頻拍が6例、上室性頻拍が3例、洞結節機能障害が1例に認められました。つまり、10例全員が完全に健康な被験者だったわけではありません。

8例では基本刺激周期によって脚ブロック形態が変化

10例のうち8例では長い基本刺激周期でRBBB型、短い基本刺激周期でLBBB型の変行伝導が誘発されました。残り2例では同じ基本刺激周期において両方の脚ブロックが誘発されましたが、RBBB型の方が長い連結期で出現しました。

症例RBBB時の基本周期LBBB時の基本周期
1740 ms600 ms
21,040 ms600 ms
3600 ms600 ms
41,050 ms600 ms
5600 ms500 ms
6830 ms600 ms
7870 ms600 ms
8950 ms950 ms
9800 ms700 ms
10910 ms500 ms

3例目と8例目は同じ基本刺激周期で両方の脚ブロックが出現した症例です。

代表例:心拍周期を短くするとRBBB型からLBBB型へ変化

症例9では基本刺激周期800 msでH₁H₂間隔475 msの早期刺激によってRBBB型が出現しました。一方、基本刺激周期を700 msへ短縮するとH₁H₂間隔410 msの早期刺激によってLBBB型が出現しました。

さらに興味深いのはHV時間の変化です。RBBB型が出現したとき、HV時間は50 msのまま変化しませんでした。しかし、LBBB型が出現したときにはHV時間が50 msから85 msへ延長しました。

この結果はLBBB型の出現時には心室の初期興奮までの伝導が遅延していることを示しています。ただし、HV時間の延長だけでは左脚の完全な伝導途絶を証明することはできません。

平均値からみた左右の違い

10例全体では以下の結果が得られました。

項目RBBB型LBBB型
平均基本刺激周期847 ms622 ms
平均相対的不応期438 ms357 ms
平均HV時間47 ± 13 ms77 ± 19 ms

RBBB型は比較的長い基本刺激周期でLBBB型は比較的短い基本刺激周期で出現していました。

ただし、ここで注意すべきことがあります。438 msと357 msという値だけを比較して右脚の不応期が左脚より81 ms長いと結論することはできません。基本刺激周期が異なるためです。

この研究の重要な点は、絶対的な不応期の長さではなく基本刺激周期の変化によって機能的脚ブロックの形態が変化したことにあります。

著者らが提唱した「不応期曲線の交差(crossover)」

著者らは右脚と左脚では心拍数増加に伴う相対的不応期の短縮程度が異なると考えました。長い基本刺激周期では右脚の相対的不応期が左脚より長いものの、基本刺激周期を短縮すると右脚の相対的不応期が大きく短縮して左脚との関係が逆転するという仮説です。

著者らは右脚と左脚では心拍数増加に伴う相対的不応期の短縮程度が異なると考えました。長い基本刺激周期では右脚の相対的不応期が左脚より長いものの、基本刺激周期を短縮すると右脚の相対的不応期が大きく短縮して左脚との関係が逆転するという仮説です。
原著Figure 3

この仮説によれば、遅い心拍数ではRBBB型の変行伝導が生じやすく、速い心拍数ではLBBB型の変行伝導が生じやすくなる可能性があります。ただし、これはすべての患者に共通する法則ではありません。

また、原著Figure 3に描かれた曲線の一部は実測値ではなく、著者らが推定した仮想的な値で構成されています。したがって、Figure 3は左右の不応期曲線が直接測定されて交差したことを示す図ではありません。

研究の最大の限界:本当に不応期が逆転したのか?

最も重要なのは機能的脚ブロックの形態が逆転したことと左右の脚の真の不応期が逆転したことは同義ではないという点です。例えば、心房早期刺激によってRBBB型が出現したとしても右脚の興奮が完全に途絶したとは限りません。右脚内の伝導が著しく遅延しただけでも心電図上はRBBB型を呈する可能性があります。

また、心拍数が増加すると以下のような変化が生じる可能性があります。

  • 右脚と左脚の局所的な興奮到達時間が変化する。
  • 先行する興奮によって各脚の回復状態が変化する。
  • 潜在性伝導によって一方の脚の興奮履歴が変化する。
  • 左脚前枝・後枝の伝導状態が異なる。

そのため、右脚と左脚の不応期そのものが逆転していなくても機能的脚ブロックの形態が変化する可能性があります。実際、著者らは原著のDiscussionで左右の脚を直接記録すれば機序を解明できると述べています。

さらに、著者ら自身が確実に結論できるのは機能的RBBBが機能的LBBBより長い基本刺激周期で出現したことであると明記しています。

なぜ314例中10例しか確認されなかったのか?

この研究では314例を対象としていますが、両方の機能的脚ブロックが誘発されたのはわずか10例でした。この結果は左右の不応期の逆転が非常にまれな現象であることを意味するのでしょうか?必ずしもそうとは限りません。

房室結節の不応期による制限

心房早期刺激を行った場合、刺激が早すぎると房室結節で伝導が途絶してしまいます。その場合、His-Purkinje系まで興奮が到達しないため右脚と左脚の不応期を評価することができません。特に短い基本刺激周期では房室結節の不応性が検査の制限因子となりやすくなります。

したがって、左右の脚の不応性を十分に評価するには房室結節を通過してHis-Purkinje系へ早期興奮が到達できる必要があります。著者らもこの条件によって特定の患者が選択された可能性を指摘しています。

つまり、314例中10例という数字は左右の不応期逆転現象の真の発生頻度を示すものではありません。一方で、この10例が特別な伝導特性を持つ患者だった可能性も否定できません。この研究だけでは一般的なHis-Purkinje系において同様の現象がどの程度存在するのかは判断できません。

他の研究では左右の不応期の逆転が確認されているのか?

Chilsonらの研究以外にも、右脚と左脚の機能的伝導障害について検討した研究があります。

Denkerら(1984年)

Effects of alternating cycle lengths on refractoriness of the His-Purkinje system.

この研究では14例に対して一定周期刺激と交互周期刺激を行いHis-Purkinje系の不応性を比較しました。交互周期刺激では14例全例で機能的RBBB、7例で機能的LBBBが誘発されました。

この研究の重要な点はHis-Purkinje系の不応性が単純な心拍周期だけでは決まらず、先行する興奮履歴にも影響されることを示した点です。ただし、Chilsonらの研究と同じように基本刺激周期の変化による左右の不応期曲線の交差を直接証明したものではありません。

その他の関連研究

右脚や左脚の不応期が心拍数に依存して変化することはほかの電気生理学的研究でも示されています。しかし、これまで確認した主要な関連文献の範囲ではChilsonらと同様の左右の不応期曲線の交差を独立した大規模研究で再現した明確な証拠は確認できていません。したがって、この現象を確立された一般的な生理現象として扱うことには慎重であるべきです。

この研究をどう評価するべきか?

Chilsonらの研究は心拍数の変化によって機能的RBBBと機能的LBBBの出現条件が変化することを示した興味深い電気生理学的研究です。一方で、いくつかの重要な限界があります。

評価項目考察
症例数314例中10例と少数
研究対象冠動脈疾患を有する患者も含む
不応期の評価脚の局所電位を直接記録していない
左右の逆転機能的脚ブロックの出現から推測
機序の証明伝導遅延と完全な伝導途絶を区別できない
再現性独立した大規模研究での確認は不十分
一般化すべての患者に当てはまるとはいえない

特に原著Figure 3の曲線は一部に仮想的な値を含んでおり実際に右脚と左脚の不応期を直接測定したものではないことに注意が必要です。

まとめ

一般に右脚は左脚より不応期が長い傾向があり、これがRBBB型の変行伝導が多い理由の一つと考えられています。しかし、Chilsonらの1984年の研究では心拍数の変化によって機能的RBBBと機能的LBBBの出現条件が変化する患者が存在することが示されました。

著者らはこの現象を右脚と左脚の相対的不応期曲線が交差する「crossover」によって説明しました。ただし、右脚と左脚の不応期を直接測定したわけではなく、著者ら自身もこの機序を仮説として扱っています。したがって、現時点では次のように理解するのが適切です。

「右脚と左脚の相対的不応性は心拍数によって異なる変化を示す可能性があり、一部の患者では機能的脚ブロックの出現条件が逆転する。ただし、左右の真の不応期が逆転することが直接証明されたわけではない。」

この研究は右脚と左脚の不応期の長短関係を単純に固定的なものとして考えるべきではないことを示す一方で、心電図上の機能的脚ブロックから不応期を推定することの限界も教えてくれます。

参考文献

  1. Chilson DA, Zipes DP, Heger JJ, et al. Functional bundle branch block: discordant response of right and left bundle branches to changes in heart rate. Am J Cardiol. 1984;54:313–316. 
  2. Denker S, et al. Effects of alternating cycle lengths on refractoriness of the His-Purkinje system. J Clin Invest.1984. 
  3. Schuilenburg RM, Durrer D. Rate-dependency of functional block in the human His bundle and bundle branch-Purkinje system. Circulation. 1973;48:526–540.