QT間隔を測定する誘導
QT間隔は心室の脱分極開始から再分極終了までの時間を反映する心電図指標であり、QT延長症候群や薬剤性QT延長の評価に重要です。12誘導心電図では一般的にII誘導やV5誘導がQT間隔の測定に用いられます。
しかし、なぜこの2つの誘導が選ばれるのでしょうか。また、QT間隔は誘導によって異なることがありますがどの誘導で測定するのが適切なのでしょうか。
今回はQT間隔の測定にII誘導やV5誘導が用いられる理由について歴史的背景から現在の考え方まで詳しく解説します。
QT間隔は誘導によって異なる
QT間隔はQRS波の開始点からT波の終末までの時間として定義されます。心室の脱分極から再分極までの電気的活動を反映しますが、12誘導心電図のすべての誘導で同じ長さに測定されるわけではありません。
これは各誘導が心臓の電気的活動を異なる方向から観察しているためです。例えば、ある誘導ではT波の終末が明瞭に確認できても別の誘導ではT波の振幅が小さく終末が不明瞭になることがあります。
また、T波の終末付近の電気的ベクトルが誘導軸に対して垂直に近い場合、その成分が心電図上に十分に反映されずにQT間隔が短く測定されることがあります。
したがって、QT間隔の測定値には誘導による差が存在するのでT波終末が明瞭な誘導を選択することが重要です。
なぜII誘導が伝統的に使用されてきたのか?
QT間隔の測定にII誘導が使用されてきた背景には心電図の歴史と電気生理学的な理由があります。
① 初期の心電図には胸部誘導が存在しなかった
20世紀初頭、Einthovenによって心電図検査が発展した当時は主に使用されていたのは標準肢誘導であるI・II・III誘導でした。現在のようなV1〜V6の胸部誘導はまだ標準化されていませんでした。
そのため、初期の研究者は標準肢誘導からQT間隔の測定に適した誘導を選択する必要がありました。このような歴史的背景がII誘導を使用する慣習の形成に影響したと考えられます。
② II誘導ではT波が比較的明瞭に記録される
II誘導の電気軸は+60°です。正常な心臓では心室脱分極や再分極の平均電気軸が概ね左下方を向くことが多く、II誘導ではQRS波やT波が比較的大きく記録されます。
そのためQRS波の開始点やT波の終末を確認しやすくQT間隔の測定に適している場合が多いと考えられます。ただし、T波の振幅が大きいことは必ずしもQT間隔が最も長く測定されることを意味しません。
③ II誘導ではU波の影響を受けにくい場合がある
QT間隔の測定ではT波とU波の区別が重要です。U波はT波に続いて出現する小さな波であり、特に左側胸部誘導では比較的明瞭に認められることがあります。
一方、II誘導ではU波が目立ちにくい場合があり、T波終末の判定に有利となることがあります。1993年にGarsonが発表したQT間隔の測定に関する論文でもこの点がII誘導を使用する理由の一つとして説明されています。
ただし、II誘導でもU波が明瞭に出現する場合やT波とU波が融合する場合があるため常にII誘導が最適とは限りません。
④ Bazettの研究でもII誘導が使用された
QT間隔の歴史において重要な人物がHenry Cuthbert Bazettです。1920年、BazettはQT間隔と心拍数の関係について研究し、現在でも広く使用されているBazett補正式を報告しました。
QTc=QT/√RR
この研究ではII誘導が使用されており、その後のQT間隔に関する研究や正常値の蓄積にも影響を与えました。つまり、II誘導が伝統的に使用されてきた背景にはT波の見やすさだけでなく初期の研究で使用されてきたという歴史的な理由もあります。
なぜV5誘導もQT間隔の測定に使用されるのか?
II誘導と並んでQT間隔の測定によく使用されるのがV5誘導です。V5誘導が使用される背景には胸部誘導の普及とT波の形態的な特徴があります。
① 胸部誘導の普及
1930年代以降、胸部誘導が発展して心臓の電気的活動を水平面から評価できるようになりました。その後、現在の標準12誘導心電図が確立されてQT間隔の測定にも胸部誘導が利用されるようになりました。
ただし、V5誘導が特定の年にII誘導に代わって標準となったわけではありません。
② V5誘導ではT波終末が明瞭なことが多い
V5誘導は左側胸部に配置されるので正常心電図では一般的に陽性T波が記録されます。V5では左室の再分極に由来するT波が比較的明瞭に記録されることが多く、T波の振幅が比較的大きく終末が明瞭な場合にはQT間隔を測定しやすいという利点があります。
特にII誘導でT波が低振幅である場合やT波終末が不明瞭な場合にはV5誘導が有用な代替誘導となります。ただし、V5誘導でもU波が目立つ場合がありT波終末の判定には注意が必要です。
③ 薬剤性QT延長の評価にも使用されている
医薬品によるQT延長の評価では測定の再現性が重要です。II誘導とV5誘導は臨床研究やQT間隔の専門的な評価で広く使用されてきました。
特に、同一患者でQT間隔を経時的に比較する場合には測定誘導や測定方法を統一することが重要です。ただし、薬剤性QT延長の評価においてもすべての症例でV5誘導が最適というわけではありません。
QT間隔の測定に関する歴史的変遷
QT間隔の測定に関する主な歴史を整理すると以下のようになります。
| 年代 | 主な出来事 | QT間隔の測定への影響 |
|---|---|---|
| 1900年代初頭 | Einthovenによる標準肢誘導の発展 | I・II・III誘導による測定 |
| 1920年 | BazettがQT間隔と心拍数の関係を報告 | II誘導を用いたQT研究 |
| 1920年 | FridericiaがQT補正式を報告 | 心拍数補正の発展 |
| 1930年代以降 | 胸部誘導の発展 | 胸部誘導でもQT測定が可能に |
| 1952年 | LepeschkinとSurawiczがQT測定の問題を検討 | T波終末やU波の判定に関する理解が進展 |
| 1993年 | GarsonがQT測定方法を解説 | II誘導を用いる理由や測定上の注意点を整理 |
| 2000年代 | 薬剤性QT延長評価の標準化 | 測定の再現性や誘導の統一を重視 |
| 2009年 | AHA/ACCF/HRS標準化勧告 | 複数誘導を利用したQT測定の重要性を提示 |
このように、QT間隔の測定は初期の単一誘導を中心とした測定から複数誘導の情報を利用する方法へと発展してきました。
2009年のAHA/ACCF/HRS勧告ではどう考えられているのか?
2009年に発表されたAHA/ACCF/HRSの心電図標準化勧告ではQT間隔の測定について重要な考え方が示されています。
① QT間隔は誘導によって異なる
各誘導ではT波の形態や終末の見え方が異なるためQT間隔の測定値にも差が生じます。そのため、単一誘導の測定値が必ずしも心室再分極の終末を最も適切に反映しているとは限りません。
② 複数誘導を用いた測定が重要
複数誘導の情報を利用することである誘導では不明瞭なQRS開始点やT波終末を別の誘導で確認できる場合があります。特に自動解析では時間的に同期した複数誘導を用いてQRS開始点とT波終末を判定する方法が利用されています。
このような方法では単一誘導のみを使用する場合よりも心室の電気的活動の開始と終了を包括的に捉えられる可能性があります。ただし、複数誘導による測定値と単一誘導による測定値は必ずしも一致しないため異なる方法で得られたQT値を単純に比較することは適切ではありません。
③ 自動解析によるQT延長は目視で確認する
心電計による自動解析ではT波終末の誤認識やU波の混入などによってQT間隔が不正確に測定されることがあります。そのため、自動解析でQT延長が指摘された場合には実際の波形を確認することが重要です。
特に、T波が平低化している場合、二峰性T波を認める場合、T波とU波が融合している場合には注意が必要です。
実際にはどの誘導でQT間隔を測定すればよいのか?
日常診療でQT間隔を測定する場合には以下のように考えると実用的です。
① まずII誘導を確認する
II誘導は伝統的に使用されてきた誘導でありT波終末が明瞭であれば測定に適しています。
② II誘導で不明瞭な場合にはV5誘導などを確認する
II誘導でT波終末が判定しにくい場合にはV5誘導を含む他の誘導を確認します。
③ T波終末が最も明瞭な誘導を選択する
QT間隔の測定では単純にT波の振幅が大きい誘導ではなく、QRS開始点とT波終末を明瞭に確認できる誘導を選択することが重要です。
④ 経時的な比較では同じ誘導を使用する
薬剤投与前後などでQT間隔を比較する場合には誘導間の測定差を避けるため、可能な限り同じ誘導と測定方法を使用します。
なお、QT間隔が最も長く測定される誘導とT波終末を最も正確に測定できる誘導は必ずしも一致しません。また、QT延長の評価では心拍数の影響を考慮する必要があり、QT間隔だけでなくQTcを評価することが重要です。
まとめ
QT間隔の測定にII誘導やV5誘導が使用される理由には歴史的背景と電気生理学的な特徴が関係しています。
II誘導が伝統的に使用されてきた理由としては、初期の心電図では標準肢誘導が中心であったこと、T波が比較的明瞭であること、U波の影響を受けにくい場合があること、そしてBazettをはじめとする初期の研究で使用されてきたことが挙げられます。
一方、V5誘導は胸部誘導の普及とともにT波終末が明瞭に確認できる誘導として利用されるようになりました。
現在ではII誘導やV5誘導を中心に確認しながらT波終末を明瞭に判定できる誘導を選択することが実用的です。さらに、複数誘導の情報を利用することで単一誘導では捉えにくい再分極の終末を評価できる場合があります。
重要なのはII誘導やV5誘導で測定すること自体ではなく、QT間隔を正確かつ再現性よく評価することです。
参考文献
- Bazett HC. An analysis of the time-relations of electrocardiograms. Heart. 1920;7:353–370.
- Fridericia LS. Die Systolendauer im Elektrokardiogramm bei normalen Menschen und bei Herzkranken. Acta Med Scand. 1920;53:469–486.
- Lepeschkin E, Surawicz B. The measurement of the Q-T interval of the electrocardiogram. Circulation. 1952;6:378–388.
- Garson A Jr. How to measure the QT interval—what is normal? Am J Cardiol. 1993;72:14B–16B.
- Rautaharju PM, Surawicz B, Gettes LS, et al. AHA/ACCF/HRS recommendations for the standardization and interpretation of the electrocardiogram: Part IV: The ST segment, T and U waves, and the QT interval. J Am Coll Cardiol. 2009;53:982–991.
- Postema PG, Wilde AAM. The measurement of the QT interval. Curr Cardiol Rev. 2014;10:287–294.
