Mixing zone
ECMO管理時のMixing zoneについてまとめました。心筋梗塞後など心機能が極度に低下しているときは、一番最初の回復の兆しは右手のSpO2,PaO2の変化です。

ミキシングゾーンは、VA-ECMO中に自己心臓から拍出される血流(antegrade flow)と、ECMO回路から動脈に戻される逆行性の血流(retrograde flow)が大動脈内で混ざり合う場所です。このゾーンは「ミキシングクラウド(mixing cloud)」とも呼ばれます。
- VA-ECMOの仕組み:VA-ECMOでは、大腿静脈などから血液を抜き(脱血)、人工肺で酸素化後、大腿動脈などに戻します(送血)。この送血は大動脈内で逆行性(下から上へ)に流れます。
- 自己心拍の影響:患者の心機能が回復し、自己心臓が血液を大動脈に拍出すると、自己心臓由来の血流(通常は肺を経由)とECMO由来の血流が衝突し、混ざり合う領域が生じます。この領域がミキシングゾーンです。
Mixing zoneを推測する

右橈骨動脈からのサンプリング:上半身の酸素化状態を正確に把握するため、右橈骨動脈から動脈血ガスを採取することが推奨されます。左橈骨動脈や下肢動脈では、ECMO血流の影響を受けやすく、実際の脳への酸素供給を反映しない場合があります。
SpO2とPaO2の変化:心機能回復の初期兆候として、右手のSpO2やPaO2の変化を確認することが重要です。
脈圧の観察:脈圧の増加は、自己心拍出量の増加とミキシングゾーンの移動を示す可能性があります。
臨床的意義
ミキシングゾーンは、VA-ECMO中の患者管理において重要な課題を引き起こします。
(1) North-South Syndrome(南北症候群、ハーレクイン症候群)
- 概要:ミキシングゾーンが原因で、上半身と下半身で酸素化状態が異なる現象です。自己心機能が回復しつつも肺機能が不良な場合、ミキシングゾーンより上流(頭側)に低酸素血が流れ、脳や冠動脈に低酸素血症を引き起こします。
- 影響:
- 頭側(脳や心臓):低酸素血が灌流し、脳低酸素症や心筋虚血のリスク。
- 尾側(下半身):ECMO血流が優勢で高酸素状態。
- 対策:
- 右橈骨動脈から動脈血ガス(ABG)を採取し、上半身の酸素化状態を確認する(右橈骨動脈は上行大動脈に近いため)。
- 換気設定の最適化:人工呼吸器の設定を調整し、自己肺の酸素化能を改善。
- V-AV ECMOへの変更:内頸静脈に追加の送血カニューレを挿入し、上半身に酸素化血を供給。
(2) 脳への酸素供給
- ミキシングゾーンが大動脈弓より遠位にある場合、脳に十分な酸素が届かない可能性があります。脳低酸素症は「見落とされがちな合併症」とされており(Web ID: 7)、適切なモニタリングが必要です。
- モニタリングポイント:右橈骨動脈の酸素飽和度(SpO2)や動脈血ガスを定期的に測定し、脳への酸素供給を評価します。
- (3) 冠動脈灌流
- ミキシングゾーンが大動脈弓付近にある場合、冠動脈は自己心臓から拍出される低酸素血で灌流されることがあります。これは心筋虚血のリスクを高めます。
- 動物実験では、冠動脈は主に左心室からの血流で灌流されることが示されており、ECMOカニューレが腕頭動脈にあっても同様です。
- (4) ETCO2(呼気終末二酸化炭素濃度)の変化
- 自己心機能が回復し、肺血流が増加すると、ETCO2が上昇します。これはミキシングゾーンが遠位に移動している指標となります。ETCO2のモニタリングは、心機能回復のサインとして役立ちます。
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