単相性

定義:単相性除細動器は、電流が一方向にのみ流れる波形を使用します。電極間で電流が一方通行(例えば、プラスからマイナスへ)に流れ、1つの波形パルスでショックを与えます。
特徴:
- 波形は単純で、電流が一方向に流れるため「単相性」と呼ばれます。
- 一般的に使用される波形は「単相性減衰波形(Monophasic Damped Sinusoidal)」や「単相性矩形波(Monophasic Truncated Exponential)」など。
- 必要なエネルギーが高く、通常200~360ジュール(J)程度でショックを与える。
メリット:
- 技術的にシンプルで、初期の除細動器はこの方式が主流でした。
- 装置の設計が比較的簡単でコストが抑えられる。
デメリット:
- 高いエネルギーを必要とするため、心筋への負担が大きい。
- 除細動の成功率が二相性に比べて低い(特に反復性の心室細動では成功率が落ちる)。
- ショック後の心筋ダメージや皮膚の火傷リスクが高い。
二相性
定義:二相性除細動器は、電流が2つの方向(プラスからマイナス、続いてマイナスからプラス)に流れる波形を使用します。1回のショックで電流の向きが反転する2段階の波形が特徴です。
特徴:
- 波形は「二相性矩形波(Biphasic Truncated Exponential)」や「二相性直線波形」など。
- 必要なエネルギーが単相性より低い(通常100~200J程度)。
- 現在ではAED(自動体外式除細動器)や病院内の除細動器のほとんどが二相性波形を採用。
メリット:
- 低いエネルギーで高い除細動成功率を実現(成功率は単相性の約90%に対し、二相性は95%以上とされる)。
- 心筋へのダメージや皮膚の火傷リスクが少ない。
- 反復性の心室細動(VF)や心室頻拍(VT)に対する効果が高い。
- 小型化が可能で、AEDなどのポータブルデバイスに適している。
デメリット:
- 装置の設計が単相性より複雑で、初期の開発コストが高かった(現在は技術が進歩しコスト差は縮小)。
- 波形の最適化には技術的な調整が必要。
違い
二相性波形が単相性より優れている理由は、心筋細胞の電気生理学的反応に関係します。
- 膜電位の変化:二相性波形は、電流の向きを反転させることで、心筋細胞の膜電位を効率的にリセットし、異常な電気活動(心室細動など)を停止させます。単相性ではこのリセット効果が弱い。
- エネルギー効率:二相性は電流の向きを変えることで、同じエネルギーでより多くの心筋細胞に作用し、除細動に必要なエネルギーを抑えられます。
- 心筋保護:低いエネルギーで済むため、心筋への熱ダメージや電気的ダメージが少なく、ショック後の心機能回復が早い。
研究では、二相性波形が単相性に比べて、特に低エネルギーでの除細動成功率が有意に高いことが示されています
使用状況
AED:一般向けのAEDはほぼ全て二相性波形を採用しており、150~200Jでショックを与える設定が一般的。低いエネルギーで安全に使用できるため、救命率が向上しています。
病院内:心臓カテーテル室やICUで使用される除細動器も二相性が主流。心房細動(AF)の電気的除細動(カーディオバージョン)でも二相性が推奨されます。
患者への影響:二相性はショック後の心筋ダメージが少ないため、患者の予後が改善し、再灌流障害のリスクも低減します。
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